助手席の連れは窓から顔を出してはるか前方をのぞき込む。
「競輪の選手かなあ?」
「わかんない。でも凄い速度だよね。」
私は車のスピードメーターを見た。いちおう時速35キロ近辺だ。
下りとはいえ、人間がそれ以上のスピードを出しているとは信じがたい。
「なんか燃えているよね。」
「ファイヤーだよね。」
「よし、応援しよう!」
とたんに元気づいた我々。
ブライダルエステのアクセルを踏みこみ、先ほどの自転車を追いかけはじめる。
退屈していた時に降って湧いたような面白ネタだ。これを逃すテはない。
いくつかのゆるいカーブを曲がり、
長い直線の道に差し掛かったところでもうひと加速。
自転車の彼を応援(笑)するならここが最適だ。
助手席の連れが、するりとナビシートから抜け出し、
箱乗り状態となった。何をする気だろうか。
ほどなくダッシュ中の自転車に私の車が追いついた。
右側から抜きかけてアクセルを緩め、並びかける。